2017-03

「いい保育」と「上手い保育」 vol.1 - 2016.10.06 Thu

「いい保育」と「上手い保育」があります。
これは「子育て」で言い換えることもできますが、今日のところは「保育」で話を進めていきます。







これまでの保育は「上手い保育」を目指してきたといえるでしょう。
そしていまだに、それは主流であるとも言えます。

例えば今の時期であれば運動会で考えてみましょう。
その集団の子供たちに、「競技や演技を習得させてそれを見る人から立派に見える形で実演させる」ということを上手にできることが保育士には要求されていました。

ほぼすべてのことがそのように「上手に」子供に「実行させること」「能力として獲得させること」が保育の仕事だったと言えるでしょう。


おむつを外すことやお箸の使い方から、座って話を聞くことなどなどの、「できる」という目に見える力を「上手に」獲得させられることが「上手い保育」であり、それができる人が「上手い保育士」でした。

それはさらに、言うことをきかない子であっても「きちんと従わせること」もそうです。
いかに「上手く子供をコントロールできるか」がその力量の重要な点だったのです。



「きちんと」「しっかり」「ちゃんと」

そこでは、これらのフレーズをいつでも無意識に大人は考えています。

「きちんとさせなきゃ」
「しっかりやらせなきゃ」
「ちゃんとさせなければ」

それは、大人が頭の中に「子供のあるべき姿」をあらかじめ設定しているということです。
そして、そこに「上手く」近づけることが、「保育」であると考えていたわけです。



もし、「座って話を聞けない子」がいたら・・・・・・。
その子に「座って話を聞かせる」ことが目的になってしまいます。

「上手い保育」では、それは長期的な目的でなく、ごく短期的に考えてしまいます。

「いま、目の前で!」。「座って聞かせなければならない」。

そして、そのために子供を動かしてしまいます。


そこで例えば威圧的に子供に関わる人であれば、「座りなさい!」といかめしい顔で注意したり、怒ったり叱ったりしてしまう人もいます。
「ごまかし」や「脅し」を使って怒ったり叱ったりはしていなくとも、それが力業の保育であることは結局のところかわりません。



それらによって、大人の望む姿を作り出すこと。
かつてはそれが「上手い保育」でした。

いまでも、この保育になってしまっているところは少なくありません。




しかし、それは必ずしもその子供自身の獲得した育ちにならないです。
なかには、それを繰り返す内にその子がそういう習慣を獲得できる子もいるかもしれませんが、結局のところ力業でその行動を作り出しているだけなので、多くの場合は「させられているから、従っているだけ」です。


つまり、その子自身の力にはなっていないのです。
その子自身が自分から、「なぜ、座って、話を聞かなければならないか」を理解したり、「話を聞く力」を育てたり、獲得しているわけではありません。


その人が力業で子供が従っている状態で満足している内は、子供を「伸ばしている」とは言えないのです。


しかし、少なからぬ人がその状態が、「保育の成功している状態」であると勘違いしてしまいます。
その背景には、日本でこれまで一般的に行われていた子育て、学校で行われていた教育の方向性が、管理的・支配的なものであったことも大きく影響しています。


本来の保育の目的は、そのように子供を「上手く」従わせることではなかったのですが、いつの間にかそれが「上手い保育」となってしまいました。



そういう保育が当然だと思っている人、「上手い保育」ができるようになってしまっている人は、例えばこのように考えます。



その人は、その「上手い保育」の経験を積んで、それが上達してしまっていますから、ことさら怒ったり叱ったり、大きな声を出したりすることもなく、威圧的な雰囲気をかもし出して、子供の方から顔色をうかがわせて言うことをきかせることができるようになってしまっています。

そこでの子供は、その人に逆らえないので、その保育士の要求にしぶしぶ従っていきます。
従ってはいても、その人に押さえつけられたり、自我を出したりすることを我慢しているので、抑圧されたもの、ストレスが溜まっています。


若い職員や、優しく受け入れる姿勢を出している職員がいる場合は、その人に何とか受け止めてもらおうと、そこで自我を出したり、要求をつきつけたり、甘えを出したりします。

その状態を「上手い保育」を獲得してしまった人から見ると、「子供を甘やかしている」「わがままを助長している」と見えてしまいます。


その本当の原因になっているのは、その人自身がする普段からの威圧的な雰囲気や、くつろぐことができない保育施設の雰囲気なのですが、そのことに自分から気がつく人はまずいません。

子供を「言うことをきかせることが当然」だと思っているので、そういう人からはその構造が目に見えなくなってしまうのですね。



また、その子たちは、園で過ごす間「とても頑張らなければならない」ので、親が迎えに来たときや、家庭に帰ってから、その反動を出してしまいます。

親に対して、イライラをぶつけたり、理不尽なわがままとして出したり、大人が受けきれないほどの過剰な甘えとして出しがちになってしまいます。


長時間の保育は、ただでさえ子供に少なからぬ負荷をかけるものですが、子供に管理的・威圧的・支配的な保育を重ねてしまえば保育士がさらにそれを助長してしまいます。


「上手い保育」が当たり前だと思ってしまっている保育士には、やはりそこでも自分がその原因になってしまうということが見えてきません。
すると、「親が甘いからだ」とか、「ちゃんと見ていないからだ」という判断をしかねません。




このような力業で子供に言うことをきかせてしまう「上手い保育」を、その施設がし出すとその施設ではそういった力業の保育しかできなくなってしまいます。

受容的な保育をそこで展開しようとしても、まず確実にそれが確立するところまで持って行けません。
なぜなら受容よりも、管理や支配、威圧が与える影響の方がずっと多くなってしまうので、何人か受容できる人がいたとしても追いつかないのです。
受容といった心のケアはコツコツとしかできないのに対して、威圧や子供の疎外、尊厳をくじくなどの強い行為は簡単に蓄積されるからです。



ですから、それら「上手い保育」ができてしまう人は、余計にその自分の保育の仕方が正しいと思い続けることになります。

受容的な優しい人や威圧のスキルが十分でない若い保育士が保育をしている状況だと、子供が「(その”上手い保育”をする人から見て)いい子」にできていないように見えるので、「やはり私のやり方でなければダメじゃない」と思えてしまいます。



日中、その威圧や管理をする「上手い保育」をしていた人が保育して、遅番の当番にはそれをしない人が保育した場合、子供たちの姿が激しいもの、落ち着きのないものになってしまうことがあります。

そうなってしまうのは当然なのです。

その「上手い保育」はバネを上から押さえつけているようなものだから、その重しがなくなってしまえば、ぴょーんと飛んでしまいます。
押さえつけ方が強ければ強いほど、その反動は大きくなることでしょう。


保育時間が短かったりすれば、まあ多少はそのような傾向があったとしても、子供の持ち前の柔軟さで乗り越えもいけますが、長時間だったり、その押さえつけが強すぎれば子供への影響は大きくなっていくことでしょう。

つづく。

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はじめまして。妊娠中からブログをずっと読ませていただき今は保活の真っ最中です。思っていた以上に可愛い子と離れがたくはありますが、私自身が保育園で楽しく過ごせていたので、よい保育園に出会えるようにと願っています。
残り少ない子と2人だけの時間を、おとーちゃんのアドバイス実践しながら楽しみます。


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