2017-11

ニーズという魔物 vol.3  ー保育の変質は保育士の人離れを生むー - 2014.10.17 Fri

僕の友人の保育士が(友達づきあいさせていただいてはおりますが、保育士としては大先輩です)、早期退職をして自身で無認可の保育所を立ち上げました。
無認可なので補助金もなく毎月自身の貯金からの持ち出しでなんとか運営をしているそうです。







認証制度などを取ろうにも(認証されれば補助金がでる)、いくらベテラン保育士であっても個人からの出発ではまず取れないということでした。また、ひも付きになることで、自分の理想とする保育ができなくなってしまうことは避けたかったので、あまりそれにはこだわらなかったそうです。
暖かみがあり朴訥なその方は多くを語りはしませんでしたが、既存の保育園での限界をひしひしと感じていたからこそ、独立した自分の園で理想とする保育を追い求めたのだと思います。


いま新システムの制度が導入されることになり、保育園のあり方も大きく変わろうとしています。
保育が行政の措置制度ではなくなり、園と個人との個別契約のかたちとなっていきます。
そのなかで、これまでの公立園や認可園も独自性を打ち出しアピールをしていくようにといった流れになっています。

国や行政の向いている先というのは、保育の質などはもはや眼中にはなくて、いかに安く維持運営し、その上がりで園を増やすというところしか見ていないので、営利企業の園がしているような、親のニーズに応えるような方向で満足度をあげさせ不満をいかに出さないかということになってきてしまっています。


そういうなかで心ある保育士は、子供へ「本来すべきことができない」という閉塞感を感じるようになってきています。

本当に子供を適切に援助し健全な成長を遂げさせたいと問題意識や専門性をもった保育士は、子供をないがしろにしてまで「世間受けのいい保育をしなさい」という職務命令には従えないのです。

僕だってもし勤めた園が利益のために外面だけはよくして、内で子供を邪険に扱っている保育をしていたとしたら、良心がとがめてそこで働き続けることはできません。

それが極端ではないにしても、じわじわと保育士のまわりに取り巻いてきているのを心ある保育士たちは感じつつあります。

職場にめぐまれなければ、問題意識の高い保育士ほどそこでの職務にやりがいを見いだせなくなっていきます。
僕自身もどれだけ優れた保育士たちが、職を辞していくのを見送ったでしょうか。
質の低い保育をしているところや、理念のない上司の元では、良心がとがめることのない問題意識を持たない人ほど残っていきます。
もちろんそれでも頑張って踏みとどまってくれる人もおりますが、保育士は元来職人みたいなところがあって、そういう人は指導的な立場を目指すよりも、一生平保育士であることを望む人も多いです。

うちの妻も最近は本来の子供のための保育以外のところでたくさんの徒労感を感じるようになっていて、僕の本がたくさん売れてまとまった資金が出来たら一緒に保育園作ろうかなどと言ってきます。
本が数冊出たとしても物書きなんかさして儲からないのですけどね。


とはいえ、ニーズを追い求めることを目的とするようになった保育園は、一般からの外からの見た目は同じでも、今後内部の人的資源が大きく変わっていくかもしれません。

いまでさえ貴重な、専門性が高く、問題のある子ですら受け止めて安定化させ健全な育ちを助けていってあげられるような人材というのがさらに減っていってしまいかねないでしょう。



いま多くの人が保育園に付加価値を求めだしています。
我が子のことだけを考えるのならば、それでも問題ないかもしれません。

しかし、保育園にくるのは円満な家庭の子ばかりではないのです。
虐待されている子や、ネグレクトを受けている子、家庭に複雑な事情を抱えた子、病気や問題を抱えた子、さまざまな子がそこで福祉的なサービスを受けているのです。
いわば社会インフラとしての機能を持っています。


保育園が社会的多数派のニーズだけに目を向けてそれを追うようになっていけば、こういった子供へのケアはだれがするのでしょう?

この子たちに本当に必要なのは、当然ながら大人を喜ばせるためのちょっとした芸事や特技のたぐいではありません。


お金をたくさん払える層ばかりを中心に保育を組み立てていったとき、この子たちの受け皿は果たして残るでしょうか?

昨今プアチルドレンということが言われるようになってきています。子供を抱えた貧困家庭の問題です。子供の6人に1人がすでにそうであるという報告もなされています。

金銭的に豊かな家庭というのは、ことさら援助を厚くせずとも貧困家庭よりもはるかに救われやすいです。
でも、金銭的に不十分な家庭は、お金をたくさん費やさずともさしのべてくれる手がなければ救われることはありません。


英会話教室の分だけ、リトミック講師の分だけ、高度な音楽教育の分と保育料が高くなったら、生活に余裕のない家庭はそういった場からははじき出されるようになります。

お金のある家庭が、保育園に通いつつ、習い事もチョイスするというのであればそれはなにほどもなく選択できます。
しかし、お金のない家庭が保育園からはじかれてしまえば、それを救える場は多くないでしょう。

別にはじかれずとも、その保育園にその子に適切な援助をしてあげることのできる職員がいなかったり、そういった子を援助しようとする保育園の姿勢がなければ、問題はそう変わりません。


親のニーズを第一とし、営利を旨とする保育園であれば、こういった社会的福祉が必要な子を喜んで受け入れようとはしないでしょう。
保育に手もかかり、トラブルも多く、親の対応は難しく、周囲の保護者からの受けも悪く、金銭的な利得も少ないとなると、そういった子は「お荷物」となります。
園の理事者側がそういった子を「お荷物」と認識しだしたら、理事者や利用者の顔色をうかがおうとする園長もそういう子の存在を好意的には見なくなります。
そこで働く職員も、その影響を受けることになるでしょうし、その職員が誠実でできるだけのことをしようと思ったとしても、組織として取り組まないことを、それに逆らってまで個人がそれ以上のことをできるべくもありません。


これからの潮流は営利でない園にも、(多数派の)親のニーズを追っていくことを要求しだしています。
一般の人の目にとまることは少ないかもしれないけれども、保育園というものは社会のあり方をしたから支えている役割を持っているのです。

援助の手の届きにくいこれらの子供に対してのケアがおろそかになってしまえば、虐待の悪化・激化や、幼少期の人格形成を適切に送らせてもらえなかった子供たちが将来にわたって社会に損失を与えていく可能性などのリスクが上がることはさけられないでしょう。


サービス業化する保育は、心ある保育士の保育離れを生みかねません。
ただでさえ今ですら、保育士資格を持ちつつ、できたら保育の仕事をしたいと考えていても、さまざまな理由から保育士以外の仕事に就いている人がたくさんいます。
いまですら減りつつあるのです、今回の新システム等で保育のあり方が大きく変わってしまったら、もう後はないかもしれません。

保育園はもっとも市民に身近な福祉として、社会のセーフティーネットの役割を持っているのです。
耳に聞こえの良い話につられて、それらの機能が低下してしまうと将来の社会リスクをあげてしまいかねません。
いま、まったく楽観のできない瀬戸際に来ていると感じます。
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● COMMENT ●

気付けない

お父ちゃんさん、こんばんは
連投で失礼します。
保育園は社会のセーフティーネット。
すごくよく分かります。
だけど保育園を選ぶのに、肝心要の子供を置いて保育の質を語る記事が出回る今現在、保育園がそういった一面も担っているとはなかなかに気付けないし、気付いたとしても他人事になってしまうのかもしれません。

保育士さんの人手不足深刻ですよね。
何故なりてがいないのか、賃金問題だけではないことに何故知事は気付かないのか、と思う次第です。
(つい先日神奈川県では県独自の保育士資格試験実施検討の話があったところです)

たびたびごめんなさい、広告の件です

今、昨日拝見できなかった分とあわせて読ませていただきました。その2日の分は広告にペケ印が付いておりまして、それをタッチしたら広告が消えました。今までもペケ印が付いていた広告もありましたが、タッチしても消えなかったのです。一昨日までスクロールの度にちらちらキラキラしていたのがなくなり、ゆっくり読めるのでとっても嬉しいです。何度も記事の内容以外のことでごめんなさい。
今後とも毎日記事とコメントを拝見しまして、自らの子どもとの関わり、そして教育の現場で、ここでのたくさんたくさんの学びを活かしていけたらなぁとおもいます。ありがとうございました☆

心に沁みました

*返信不要です

いつも拝見しております。

今回の記事、保育士おとーちゃんさんの言いたいことがよく分かり、
心に沁みました。

私は保育士ではありませんが、おとーちゃんさんと同意見です。

このサイトを拝見していて、以前から、
保育士さん達から同様の意見が出されることが気になっていました。

『職業に適性がない』とか『他にやりたい仕事がある』という理由でなければ、心ある保育士さん達に辞めて欲しくないです。

でも、辞めたくなるほど、現状は辛いんですね。

お金儲けをしたいから保育士になる人なんて
いません。基本的には、福祉の精神をお持ちの方々だと思います。

うちの子どもが卒園する際に、
うちの子どもの成長を泣いて喜んでくださいました。本当に有難かったです。

保育士さんは、他人の子どもの成長で泣ける人達なのだと思いました。

うちの子どもが以前通っていた園でも、
保護者会で、『勉強を教えてほしい』『英語を導入してほしい』という意見が保護者から出て、とても驚きました。

株式会社が経営する近隣の他園では
英語や体育指導、リトミック等を教えているから、
導入してほしいとのことでした。
でも、その近隣の他園では保育士の離職率が高いらしいです。

そのような意見を出す方は教育熱心な方々で、
きちんとした方々(たぶん富裕層)でした。

その一方で、同じクラスには、
生活が苦しいとおっしゃる方もいました。

両者はあらゆる点において考え方が乖離していて、全くかみ合いませんでした。
保護者には色々な方がいらっしゃいます。


仮に、生まれ落ちた環境が悪かった子どもであっても、
保育園という、社会生活のスタートくらい、
きちんとケアしてあげる環境を用意してあげる必要があると心底思います。

いつも、社会に必要な観点をご教示下さり、ありがとうございます。

No title

おはようございます。

一連の記事、大変興味深く拝見しています。

我が家の娘達は認可外の保育園に通っています。
創立40年以上の古い園です。
保育士の資格をもっていた園長先生が、
子供を預けるところがなくて困っているご近所の方たちを
今で言う「保育ママ」のような形で、サポートしたのが始まりだったそうです。

今では100人規模の園になっているので、認可保育園になるようにと、
市からは何度も言われているそうですが、
「自分の思う保育がしたいから」と断り続けているそうです。

おとーちゃんのご友人も大変なご決断をされたと思います。
どうぞ、ご自分の思う保育ができるように、お祈りいたします。


No title

こんにちは!
いつも楽しく、そして改めて保育について考え直しながら、
拝見させていただいております♪

サービス業化する保育・・・
保育士の保育離れ・・・
本当に考えさせられます。

私の友達は、園で英語を取り入れて先生自身も英語を課せられたりと、
保護者にアピールすることばかりに目がいっていて、
本来の保育ができていないのではないかと悩んでいました。

熱意がある保育士さんほど、
矛盾点に気付き辞めていってしまう。

保護者アピールや営業利益だけではなく、
子どもたちのことを一生懸命に考えてくれる園が増えてくれることを願います。

リンクをさせていただきました☆
もしよろしければ、相互リンクよろしくお願いします♪

応援ぽちっ☆

ズレだコメントで恐縮なんですが…
私は英語教育について本当に英語を習得させたいなら環境かえないと意味ないじゃんという考えでさらさら習わせる気はないんですけど、先日体験保育に行った先で外国の先生による英語の勉強?みたいなものがありました。
とは言っても歌って踊ったり色とかの単語を当てたりなんだりのゲーム感覚で楽しく覚えようっていう感じでした。
それを体験して思ったのは、日本人の先生にはないあのハイテンション。そして彫りが深い分表情の豊かさが凄いのなんのって。大人の私まで楽しんじゃいました。それで分かったのは小さいうちの英語教室?ってなにも喋れるようにってだけじゃなくて英語を好きになるとっかかりみたいなものなんですね。(素敵な勘違いだったらすみません)体験する前は保育園で英語とか他にやることあるだろってアンチだったんですが、娘がこの先生と関わることで、情緒にプラスの影響を与えてくれるんじゃないかと期待してしまいました。

保育園、幼稚園選びって難しいですね。

保育園は安全で安心なところ

おとーちゃん先生こんにちは!

じつは現在うちの年中君がお世話になっている保育園も
ある行事を中止にしたい園と反対している保護者で対立中です

その行事はお泊り会で、数年前から始まったばかりです
伝統的というものでもなく、子どもや先生の負担を考えると
中止になっても仕方ないかなと思うのですが
子どもが楽しみにしていると一部の保護者からは猛反対があり

何でもいいのですが行事に向けて皆が協力して努力して
達成する喜びも大切だと思います、けれどもそれはお泊りせずとも
通常の保育時間にできることもあるでしょうし

うちの息子は保育園で3.11に遭いました(当時1歳2カ月)
それ以来、子どもが安全に安心して過ごせる場所であるようにと
願う日々です

クラスの仲間や先生たちと心おだやかに過ごすことができれば
それで十分だと思うのですが・・・

とりとめなくすみません


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楽しく無理のない子育てを広めたいと2009年ブログ開設。多くの方の応援があって著作の出版や講演活動をするようになりました。 現在は、子育て講演や保育士セミナーの他、『たまひよ』や『AERA with Baby 』等の子育て雑誌の監修やコラム執筆。『ジョブデポ保育士』の監修や育児相談などをいたしております。

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