2017-07

保育はサービス業か? - 2011.11.11 Fri

長く保育士をしている人に「保育士の業種はなんですか?」と聞けば、おそらく「福祉職です」と答えるでしょう。

でも、若い人や民間の営利目的で保育園を経営してる会社などでは、そうは考えていない人もいるかもしれません。


民間参入をしやすくするため、保育で営利を目的としてよい認証保育所ができるようになってきた頃からはっきりと、一口に「保育園」といってもその内実はずいぶんと変わってきました。

流行りのドラッガーの言葉を借りれば保育の世界にもひとつのイノベーションがありました。
それは、子供に対するケアではなく「親のニーズ」を第一に満たす方に転換するというものです。




それまで施設の設置の目的は親に変わって子供を預かるところだから親のためではあるのだけど、保育園のなかで行うことはそれぞれの保育園が「子供の最善の利益」というものを追求してきました。
しかし、それがそれよりも親の満足度というものを重視する方向になってきています。
もちろん全てがそうではありませんが、認証保育園の存在や認可園でも営利企業が経営母体となっているものなど少なくないので、もはやそういうところも一般化しています。


保育で利益を上げるためには、お金を払う親の受けを狙ってしまったほうが手っ取り早いのです。

そういったところでは、「子供にどう適切な援助をするか」「良い育ちを提供していくか」などというのは二の次、三の次、そもそもそんなことは保育の目的の中に入っていないかもしれません。


これはけっして誇張ではありません。
認証保育所や認可園でも経営母体が営利目的の保育園ではすでにこういうことが起こっています。

そういったところでは、建物の外観や内装、職員の制服などの見えるところ分かりやすいところにお金を掛けて、また親が望むような「お勉強」的な内容や英会話やリトミックなどでのアピールに熱心なところもあります。
どんな研修をどれほどしていますなどといった宣伝文句も見かけます。

しかし一方で保育内容はというと、正しい知識や経験が非常に乏しい職員ばかりだったり、少ない人員で雑な保育だったり、子供への育ちの援助などそもそも視野に入っておらず預かっている間だけとにかく怪我をさせないだけの「子守り」でしかなかったりするところもあります。

ある保育の会社はどこどこの国のなんとか協会の保育を学んで実施していますと宣伝していたところがありましたが、その実際は「怪我だけはさせない」だけの子守保育でしかありませんでした。
内容は旧態依然とした十把一絡げの昔の日本の保育のまま・・。
でも、怪我だけはさせるまいと上司が目を釣り上げて保育士を管理しているので、働いている保育士はどんよ~りだったりピリピリしていました。
保育士の定着率もずいぶん低かったようです。


もちろん認証保育所や会社経営の保育園のすべてのところが、そういったずさんな保育をしているかというとそんなことはないとは思います。

僕が実際にみたり経験したこと、そういったところで働いている保育士たちからの話、あずけている親からの話、そういうところから自分の保育園に転入してきた子供たちの育ちの様子などからして少なからず宣伝文句・見た目の立派なところとその内実のギャップを明らかに感じます。


このことは、以前にも書いたように残念なことに公立保育園や認可園が、どこも全て質が高い保育を出来ているかと言えばそう言い切れないところもありますので、どっちが良くてどちらが悪いという話ではありません。
今回はそういった保育園へのニーズの変化というお話です、そう思って読んでくださいね。


営利を上げるには当然ニーズを読むことが大切でしょう。
親のニーズが早期教育などで満たせるうちは、本当に質の高い保育を営利企業に求めることは難しいように感じます。

質の高い保育士を養成して、長期にわたって雇用し経験を積ませていくよりも、例えば週に一度英語だとかのパートタイム講師を雇うことで、親のニーズを満たせるならはるかに安上がりだからです。


また、親の意識もずいぶん変わってきているのも事実です。

保育士に子供のためにどうこうというアドバイスを期待するよりも、なんでも都合のいいようにハイハイと聞いてくれるほうがいいという人は増えています。

実際に、ある認証保育所の運営会社では「親にアドバイス・忠告めいたことは一切するな」「親の要求を第一に考えるよう」と保育士に指導しているところもあります。
子供のためにと保育士が親へ働きかけることをさせないようにしているわけです。

このことはわからないわけでもありません。
たしかに、親へのアドバイスをめぐって返って親に反発されて信頼関係をそこなってしまったり、八つ当たり的なクレームとして返ってくるということがだんだん多くなってきているからです。

例えばこんなことがあります。

毎晩のように居酒屋や友人宅を連れ回されて心身ともに疲れ気味、親の関心・注目も低いので情緒的にも荒れている1歳児。
「保育園も結構疲れるからのんびりと過ごしてあげたり、向き合って遊んであげたりもするといいですよ」とやんわりと伝えても、自分のしていることを否定されているととるのか反発されてしまうことも。

他にも

「昨晩熱がありましたけど、もう下がりました。お願いします」と2歳児をあずけていきました。
下がったといっても実は解熱剤を使って下がっているだけで、しばらくしてすぐ高熱が出る。
ぐったりしていて保育できる状況ではないので会社に電話したところ、会社からは今日は休んでいますとの返事。
家に連絡して迎えにきてもらう。
「おやすみだったのなら、具合の悪いときは家で見てあげたほうがいいですよ」とそれとなく伝える。
その際はなにもなかったが、あとで園長に電話が掛かってきて、「保育料を払っているのにあずけて何が悪いんだ」とクレーム。

・・・このようなことが非常に増えています。

子供への援助はひいては親のためでもあるとよかれと思って保育士はしていても、なかなか最近の人たちの感覚ではそうは取ってもらえないようになりつつあるのを感じます。

たしかに、親の言うことをなんでもハイハイと聞いて親の要望だけを満たせばいいのならそれは簡単です。
でもそれは「子供のよりよい育ちの追求」ということを無視してもいい・・・という前提があればです。

保育士の職務とはまず子供ありきでしょう。
子供のために良かれとすることが結果的に親のためでもあり、親への援助となっていたはずです。

ときには子供のためにどうしても必要だと思われれば、親の意に沿わないことも言わなければならないことも出てくるでしょう。
でも、誰だって本当はそんなことは言いたくて言っているのではないのだよね、それが子供のためだと思えばこそあえて保育士は憎まれ役になるのだね。
それが保育士としての責任であり、保育士なりの子供への愛情でしょう。

そこを親の気に入らないことは一切言わなくていい、ケガだけさせない保育ならたしかに楽です。
でもそれだと子供と保育士の関係は「あなたと私は保育時間だけのお金の関係よ」と言っているに等しいのではないでしょうか。

それは日本の保育界が長年かかって目指してきたものではないはずです。

長いのでまた次回につづきます。
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● COMMENT ●

こどもが可愛い、子育てが楽しいと思う親は善で、こどもが嫌いで子育てが嫌だと思う親は悪だという考えが一般的な感じですので、母親が自分のイライラや本当の心の苦しさを吐き出せずにいる場合があるような気がします。妊娠して赤ちゃんを胸に抱いて、さあこれから一生懸命、愛情をかけて育てようと思っていたのに 実際思うよういかなかったりすると悩むし、他のお母さんやこどもがすごく良い子に見えると自分が嫌にもなったり…。また核家族が増え、夫の帰りが遅かったり、協力者が周りにいない状況で孤独に育児をしている親は多くなりつつありますよね。それに加え、同世代の母親が綺麗だったり、仕事がバリバリで輝いていると自分がミジメになってこんなはずではなかったと感じるとか…。
精神的に強い人ばかりではないので、今育児ストレスと言ってもいろいろな状況が折り重なって 母親にかかってきてるのかもしれません。

保育園の保育士さんも臨時職員やパートで働いてみえたりすると結婚、妊娠で退職せざるをしなかったりで、一人の保育士を長く育てる環境でない場合もあるかもしれませんし。

どんな親も子も「がんばってるね」ってまるごと受け止めてくれるような対応をもしかしたら求めてるような気がします。人との関わりが薄くなったので、本当は人と関わりたいけど、でもあんまり叱られたりするのはいやだみたいな

子育てがこんなに素晴らしいと感じたいとか、悩みやストレスを解消できる場を探していると思います。

私の職場は認可ですがまさにそんな感じです。
土曜日も給食があるので家で見られない人のための保育園なのに仕事じゃなくても預ける親が多く土曜日は職員不足なのに子どもはすごい人数です。
やはり「保育料を払っているのになんでだ」とクレームをつける親もいるから強く出られない状況です。
保護者の要求ばかり受け入れているのでモンスターペアレンツをたくさん作っている気もします。

保育も忙しいからと行き当たりばったりの保育になりがちだし子どもも手の掛かる子が多く職員はイライラしてみて感情的に怒る人も多いです。
全てが悪循環な気がしす。
新卒から長くいる保育士はやる気がありません。そういう体制に染まってしまいます。

なかなかそういう職員を変えていくのも難しいです。

意識が高い職員は数人ですね。

サービス業になりつつある

職場は私立の認可です。マーチング、リズム指導、お茶、英会話など講師を呼んでやってます。
畑もあるけど年長年中はマーチング練習やら教室があり忙しくて畑の苗植えしかせず水やりも草取りも職員です。収穫は3歳2歳児が行きました。ほとんど畑で野菜が腐っている状態です。
施設は新しくて綺麗です。園庭は狭く、うん百万の固定遊具がひとつあります。
たくさん入園して欲しいので見えるところにはお金をかけます。
保護者のご機嫌をとり保護者のいいなりです。

本当にサービス業ですよね。

職員は疲れてるしやる気ありません。
子どもに対して冷たいとか感情的に怒ったり以上児を未満児の部屋へ連れて来たりこんな言葉掛けしていいの?と耳を疑ってしまうこともあり…保育士に向いていない人もたくさんいますよ。

子供の最善の利益

おっしゃる状況はよくわかります。
本当に子供のためを思うと、親に何とかしてほしいと思うこともあります。
でも、私は親御さんが望まない状況でアドバイスや忠告をすることが本当に子供の最善の利益を守ることになるのかは疑問です。(サービス業とかそういう次元ではなく)

親だっていろんな状況を抱えながら、みなそれぞれの状況の中でがんばっているのではないでしょうか。保育者からみて大変な方ほど実は内心とても頑張っていたり苦しんでいるのではないかと思います。
そんな方に対してアドバイスや忠告をすることは追いつめて、逃げ場をなくしてしまい結果子供との関係性までもより悪くしてしまうことのほうが多いのではないかと思います。

大変な親御さんだからこそ、より大きな気持ちで受け止められるそんな保育者でありたいと思います。

きららさん

そういう現実がいま多かれ少なかれ保育の世界にはあって、それを一部の良心的な保育士がなんとかがんばって子供たちのケアをしている状況なのですよね。
やる気の無い保育士、適正の明らかに欠けていると思われる保育士、意地悪なことを子供に対してもしてしまう保育士、なぜかそういう人たちが少なくないのが現実ですね。
子育てをもっと大切にできたら社会全体がもっとよくなると思うのだけどね。

ゆるりさん

アドバイスという意味でここであげた例が悪かったのかもしれませんが、もちろん一生懸命やっている人を追い詰めたりするようなことがいいとも思ってないし、そんなことをしたりはしないですよ。
ただ、親の無関心さとかで子供が情緒不安定になっていったり、性格がねじくれていったりするのを僕は目の当たりにしてきました。こういうことは地域差があるかもしれないけれども、僕の暮らす東京ではとても増えております。
そういった状況になっているときに、場合によっては保育園がその子を少しでもいいほうへ向かわせることのできる唯一であったり、最後のところかもしれなくなっています。現代の保育園にはその役割が不可避的にあると思うのです。

大変な親御さんであれば出来うる限りサポートするのは保育士として当然のことです。
しかし、たとえば全く親に省みられない子供や、極端なところでは虐待されている子供など子供を救うのもまた保育士としての当然の職務だと思うのです。

今回の記事の論点はそういった社会福祉としての側面のある保育というものを、経済効率だけでサービス業にしてしまっていいのかということなのでした。


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楽しく無理のない子育てを広めたいと2009年ブログ開設。多くの方の応援があって著作の出版や講演活動をするようになりました。 現在は、子育て講演や保育士セミナーの他、『たまひよ』や『AERA with Baby 』等の子育て雑誌の監修やコラム執筆。『ジョブデポ保育士』の監修や育児相談などをいたしております。

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