2017-10

『「自主性・主体性」の保育の理解と実践』セミナーを終えて vol.2 - 2017.07.05 Wed

以前の記事が途中になってしまっているのは僕も気にかけているので、とりあえず話の流れでいまのテーマが終わりしだい戻って書いていきますね。


僕の保育セミナーにいらっしゃる人には、保育士以外の前職があってそこから保育士資格をとって保育施設で働いたという方が比較的多いようです。

中にはそれこそ僕の本やブログを読んで、迷っていたけど背中を押されてなりましたなんていう方もいらっしゃって恐縮です。

しかし悲しいのは、そんな志あって保育士になったのに、勤めてみたところはそれこそ僕が旧態依然とした無自覚な保育と書いているような施設で日々の仕事がつらいです、というケースが少なくないことです。





また、非常勤やパートで働いているのだけど「職員の先生たちの保育に疑問を感じているので学びに来ました」という方も多いです。
これもまた悲しいことなのだよね。

非常勤やパートの保育士が学びに来てはいけないということではなくて、本来率先して自分たちの保育を考えたり向上させたりしなければならない正規の職員が、問題に気づかず動こうともしていないということが。

非常勤やパートの人のさらに少し先には、保護者の目があるわけですから、そのような保育は遠からず保護者からも不満を持たれていたり、おかしいのではないかと指摘される、そういったことが現在進行形であったり、近い将来起こりうるということも示唆しています。


保育は常に対象が移り変わっていくわけですから、どんなにいい保育ができていたとしてすら「これでいい」という終点があるわけではないのですね。
常に、「これでいいのかな?」という視点を持って自身の保育を見つめていく必要があります。

そうであれば、40年前と同じレベルといったことはないはずなのだけど、人の性(さが)というもので「自分のしていること、してきたことは正しい」という気持ちから、無自覚な保育におちいりやすいもののようです。



今回のセミナーのアンケートの中で、「一緒に働く同僚や先輩にも、知ってもらいたいと思う内容は何でしたか?」という質問に「今日のセミナーの内容すべて」という方も多く、無自覚な保育が行われている施設の多いなかでみなさん悩んでいることを感じます。




自分で言うのもなんですが、今回のテーマと内容は非常におもしろかったと思います。

こういった保育の講演などをしている方は結構な数いるけれども、今回のような話ができる人はそう多くないのではないかな。

というのも、確かに「子供の自主性・主体性」といったことを語る人はたくさんいます。
しかし、保育の研究者などはその理念的なウエイトが大きくなり、高尚な話になりがちだったり、子供に対しての展開の模範的ケース(最近の流行だとレッジョエミリアなど)を語るものがほとんどです。

つまり、研究レベルでの話と、きれいに整った話になってしまいます。
それらはそれらでもちろん意味があるのだけど、こういった話が保育にプラスの影響を与えられる現場のケースは、「もともと一定レベルの保育をしている良質な施設」というのが現実なのです。

多くの施設でも、そういったものを上辺だけ取り入れて「子供に”自主的で主体的な”素晴らしい芸術活動を保育に取り入れた」ということはできるのだけど、一方で、例えばお散歩ロープで子供を引っ張って歩いていることに自主性や主体性を損なってしまうものが含まれていることに気がつかせることはありません。

このあたりが、これまでの保育の学びの在り方が、本質的な保育の向上につながっていかないジレンマを表しています。


僕は、「高尚な保育」「メディアでもてはやされてしまうような見た目の立派な保育」は実のところあんまり興味はありません。(それはそれで素敵だとは思うけどね)
それよりも、「より適切な子育てをいかに保育の中に落とし込んでいけるのか」という、基本的なところにあります。



最近、大日向雅美先生が「保育に哲学を」ということをおっしゃっていますが、
今回のセミナーで僕がしたのはまさにそれだと思っています。

いままで目に映らなかったことの意味をきちんと提示して、保育をする人の目に映るようにし、
それまで当たり前だと思っていたものの意味を問い直し、考える視点を保育する人にもってもらうようにしました。


「自主性・主体性」というと、「子供にいかに活動を自主的・主体的に取り組ませるか」ということだと考える人が圧倒的であったと思います。
それは、「子供の活動における子供の自主性・主体性」です。

現在の保育において本当に考えるべきは、「保育における子供の自主性・主体性」なのです。
ちょっと文章だとピンとこないかもしれませんが、セミナーに参加なさった方はいまはそれがわかるかと思います。

現在の問題の多い保育の在り方を考えるためには、この「保育における子供の自主性・主体性」の視点が欠かせません。これは保育の根幹に関わる問題です。



このテーマを確立することが僕の今年の目標のひとつでした。
今回こうしてお伝えできる形でまとめることができましたので、今後も繰り返しお伝えしていく機会を設けたいと思っております。

また、これを実践する際に大切になってくる「受容と信頼関係の保育」(これはすでに何度もセミナーや講演・研修をしております)も、さらに深めてお伝えしていきたいです。

アンケートの中でも、もっと事例や具体的対応が聴きたかったという声が多くありました。
僕も、それはお伝えしたいのだけど時間的にあれがぎりぎりでした。
連続研修のような事例を掘り下げてみていく場で、そういったことをしていきたいと思いますので、どうぞぜひご参加下さい。


もし、講演や研修などお考えとのことでしたら、僕のホームページでも、今回の企画をしてくださったHOIKU BATAKEさんの方にでもお問い合わせいただければと思います。



さて、前置きがだいぶ長くなってしまいました。
前回の質問「優しい支配でない対応について」の回答の続きを書いていきます。

1,「カードを出す」アプローチ
・大人は指示ではなく、行動する理由や必要性を提示するだけ
・行動の結果を大人は見守る、待つ
・少しでも行動できた際は認めるアプローチ
・できない状態や失敗も許容する姿勢

カードを出すアプローチが通じないケースには↓
 ●要求するものごとがその子、もしくはその子たちの発達段階に合っていない可能性
 ●諸条件の方に問題がある場合
 
前回は以上のものについて述べました。



2,「私メッセージ」を使う

「私」を主語にした言葉を使うことで、指示ではなく自発的な行動を期待する。

例:「私はそれは困ります」
  「私は○○したいです」

・心のパイプ
上のような言葉は、子供に管理や支配で関わる傾向のある人が使うと、それを冷たくとか厳しく伝えるので、場合によっては「疎外」としての関わりになることがあります。

「そんなの困るんだど・・・」と冷たい目線・表情で、子供に受容的でない気持ちですれば、同じ言葉だとしても疎外の関わりになり、結局のところ子供に大人の顔色をうかがわせることで支配することになります。
僕がここで述べているのは、それではありません。


あくまで、子供と保育者の信頼関係を元にして、「私が~~~」というメッセージで子供の自発的な行動を待つのです。

もちろん、これを使ったとしても子供は思った通りに動いてくれないこともあるでしょう。
相手にしているのは人間ですから、当然そういうこともあります。そのときの対応はそのケースにより様々ですが、よしんばそこでの状況からどうしても行動してもらわねばならなくなって、その後に指示的な関わりが必要になってしまったとしても、それは最初から頭ごなしに指示をするのとは意味合いが変わってくることです。


※保育士でない家庭の子育てをしている方もこれを読んでいることと思いますので、補足しておきます。
このアプローチは、依存が強くなってしまっているケースでは通じない、逆効果ということも場合によってはあります。
その場合は、依存にならないようにする姿勢などを気をつける必要もあるかと思います。

保育施設では通常あまりこの依存の問題には(家庭内でほど)直面しにくいので、これがしやすい部分があります。




3,ひとりの人間として大人と同様に考えてみる

次に、指示や命令、管理や支配ではない関わりとしてこのことがあります。

いたってこれは当たり前のことなのだけど、子供に関わるのは管理や支配で関わるのが当然、もしくは子供に対して大人は上にいるといった気持ちを持っていると気がつけなくなってしまう点です。


なんてことはない、普通に話せばいいんです。

大人が大人に呼びかけるとき、「おいでー」と呼ぶことはそうそうないでしょう。
あるとしても、そういう言い方をしても失礼にならない限定的な関係や状況になるかと思います。

じゃあ、なんて言っているでしょうか?

「こっちに来て下さい」
「こちらです」
「こちらへどうぞ」

などが使われます。

「○○が子供に適切でないならばどうすれば?」というとき、相手が大人だったらどう言うかを考えれば、おのずと答えは見えてくるかと思います。


・子供の人権
このことを深く考えていくと、「子供の人権」というテーマにもつながっていることがわかります。
保育指針の中にも「子供の人権に留意して」など、人権という語がしばしば出てきます。
保育士にはそういった感覚も要求されているのですね。
これも、保育士としての学習のテーマのひとつです。




4,子供の理解しやすい、わかりやすい言い方

・「いいきりの形」をつかう

日本語にはひとつ不思議な特徴があります。

それは、婉曲(遠回しな表現)にしたり、語や文章を長くすると丁寧に聞こえるというものです。

子供に丁寧に関わろうとして、しばしばこれにおちいってしまう人は少なくありません。保育士も無意識にそうなってしまっていることがあります。


その人は、子供に高圧的に関わりたくないと思ってそのようにしているのかもしれませんが、それが伝わらなければ、子供がその要求に従うこともできず意味がありませんね。

英語のような外国語ですと、重要なセンテンスが文頭に来ますので、行動への要求などが理解しやすいのですが、日本語では文章が長くなると逆に後の方に重要なセンテンスが持って行かれてしまうので、子供には伝わりにくくなります。

そこで、言い方を変えることで、子供が理解しやすくなり自発的に動きやすいということがあります。

それがこの「いいきりの形」です。


文章のワンセンテンスを短くして、極力必要なことをシンプルに伝えます。

「これから公園に行きます (間) その前にお部屋を片付けます」

ですます調を使うことで、語がシンプルになり、年齢の小さい子、理解の力の育っていない子、言葉の指示が入りにくい子にも伝わりやすくなり、結果として子供の自発的な行動の取りやすい状況を保育者が意図的に作り出すことになります。


この関わりは一見指示的にも見えます、言葉でのメッセージの伝わりにくい状況(個々の子供の個性・発達段階・その日の状態)に対して、もっとも必要な行動をわかりやすい表現を求めた結果のアプローチなので、その精神と実際上の運用としては指示ではありません。


「これから公園に行くから片付けをしてちょうだい」
こうすると、指示的な言い方+文章が長くなりわかりにくくなるというものになっていますね。



5,(上級編)子供が主体的に行動できる →そもそも指示をする必要のない子供たちを育てる

まあ、これが本来目指すべきところなのですが、

その園の保育全体が、子供の自主性・主体性を理解していて、指示的管理的に関わる保育者がおらず、0歳児クラスや新入園のときから、保育者との信頼関係を元にして生活の隅々までその精神の元に保育ができていたら、子供はびっくりするほど指示や命令の必要のない存在に育てます。


例えば、上の

「これから公園に行くから片付けをしてちょうだい」
もしくは、
「これから公園に行きます (間) その前にお部屋を片付けます」

この場面。


保育者が、時計を見て「そろそろ戸外保育の時間だから使っていない遊具を片付けておこう」と動いたときや、散歩用のカバンを準備しはじめたのを子供たちが目に留めて、大人がなんの指示どころか言葉ひとつ発さなくとも、子供たちがそれと気づいて片付けをはじめ散歩の準備をしだしたりする子供に育てることが可能です。

それがどういった子供の行動になるかは、それぞれです。
それをできる子供にしなさいという話ではありません。
子供の個性や発達段階、家庭の状況などにより、大きな違いは当然あります。
だから、立派に行動できることがいいことというわけではありません。
ただ、自主性を重んじた関わりにはそれだけの力があるということです。


それに年齢は関係ありません。
自主性主体性は大人がきちんと意識して伸ばしていかなければ、何歳になっても表れては来ませんし、年齢がちいさくともそれを踏まえた保育をしていればそれが表れてきます。


ある、1歳児クラスの事例ですが、これから戸外遊びにいくという状況で、やはり大人の動きをみて自発的に片付けが始まり、片付けが終わると月齢の高い子がみんなの靴下が入っている靴下入れを持ってきて配り、それにうながされるように自然と月齢の低い子も含む他の子も自然と準備をしています。
その間、保育士はなにを言うでもなく、にっこりとほほえんで待っているだけ。
ときおり、靴下が引っかかって上手くはけない子や上着が自分で着れない子が、「てつだってー」と保育士のところに自分からくるので、それに応えていくだけです。


これは、子供が自分でできるように「仕込んだ」わけでも、「しつけた」わけでもありません。

その保育士との信頼関係ゆえに、そういった自主性自発性が出ているのです。


この保育士が力を入れるのは、短絡的な目の前の「子供に~~させる」ということではありません。
その子が他者を信頼することができるような準備段階や、受容、愛着の問題解決、自立心などの心の発達の援助、そのようなところです。

子供の見た目の短期的な行動というのは、それらのあとについてくるものでしかありません。


これが、本来保育所保育指針が示しているところの、自主性・主体性を尊重した保育です。
なにもすごいことではなく、指針がもう何十年も前から指し示していることなのです。
にもかかわらず、一般的には「しつけ」の考え方に寄った子供の管理と支配の関わりをしてしまっている施設が大半です。これでは「保育士の専門性」ということは言えないのだよね。


上のような保育をすると、子供との生活の隅々にまで「私とその子供が心地よく心でつながっている」という手応えを常にしっかりと感じられて、保育の仕事にやりがいと達成感を感じることができます。
そしてなにより楽しいよ。


とりあえず、今回の回答はこれで終わりです。
他にもなにか質問やセミナーの感想などありましたら、コメント欄に遠慮なくどうぞ。


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● COMMENT ●

支配的なかかわり・声掛け

子供と心地よく心がつながっている。
それがなにより大切なことですよね。

この記事のように日々おとーちゃんさんのブログを読んで勉強しているおかげか、私は最近、周囲のママさんの支配的なかかわりがよく目につくようになりました。
たとえば児童館で、子供連れで来ているママさん2人は、

・片方がおもちゃを取ってしまうたびに「どうして意地悪するの?仲良くしなきゃだめでしょ~」と言う
・勢いあまって、相手の子が泣いてしまった時には「あー、泣いちゃった。かわいそう」と一言

こうした声掛けが、頻繁にありました。
私が見ている限り、子供たちどうしに悪気はないので(2歳頃なので、おもちゃの取り合いは当たり前のことだろうに)、とにかく「仲良く遊びなさい」を非常に強調していました。ママさんたちは「子供どうしで仲良く遊ばせたい=社交性を身につけさせたい」と願っているのでしょうし(それこそ悪気なく)、お相手のママの気を損ねないよう、ママさん同士の関係にも配慮しての行動なのでのでしょうが……。あんな風に子供を抑えつけなければいけなくなるのなら、いったい何の為の「ママ友」なんだろう?と、傍から見ていてふと疑問に感じてしまいました。
子供自身が楽しく、のびのびと遊ぶ。そうした時間を大切にしてあげたいものです。


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