2017-09

早期教育の弊害 Vol.2 - 2010.06.26 Sat

前回からの続きです。



ある事例があります。

2歳クラスの男の子でしたので、2歳クラスとはいってもあと数ヶ月で3歳になる子でした。
ほとんど言葉がでません。

たしかに言葉の発達は個人差の大きいものではありますが、その子の場合は母親のその子への関心の薄さ、関わりの少なさがもっとも大きな原因のようでした。また、なんらかの障害があるわけではありません。


保育士からは、もっと言葉をかけたり共感したりする経験をもつように勧めたのですが、母親は自分に原因があると考えたくないのか、それともなにかすることで言葉がでることを期待したのか、こども向け英語教室に通わせました。








もともと母親との関わりが少なく、人と関わることに楽しさを経験していないので、英語教室に行ってもストレスを感じるばかりなのですね。

教室に通った次の日などは明らかに毎回、保育園で荒れるのです。

そして、もちろん楽しめていない英語など覚えられるはずがありません。
結局、会話になるような言葉がでてきたのは3歳をすぎてだいぶたってからでした。


これは直接的に早期教育の弊害というわけではありませんが、似たようなケースをたくさん見ています。つまり、親が子育ての難しさ、不安ゆえに早期教育の門を叩くので間接的に早期教育というものの存在が、いまの子育ての中で問題を大きくしてしまっているという例です。
現実には、ここに「こどもを自分で見たくない親」の問題も入ってきます。


先ほど、早期教育の構造が、排泄を急がせてうまくいかないという構造と似ていると話しましたが、実際に、排泄を急ごうとする親ほど早期教育をやらせようという意欲が高いのを感じます。

親がこどもに何がしかの「成果」を求めているのでしょうか。
どうも、「出来ること」を望む親は、どんどんこどもに「出来ること」を期待しそれを重ねていく傾向があるようです。


そういう期待をされてしまう子がいま増えています。

排泄で早くに出来ることを求められ、うまくいかず良い情緒を得ていない、基本的信頼感がない、つまり安心して物事に取り組んだり、屈託なく人と関わることが出来ていないにもかかわらず、それでもなんとかオムツがはずれた頃には、もう早期教育に駆り立てられさらにストレスを増大させているという子が多くなってきました。


「なんとなくやらせている」程度ならそれほど顕著な問題はでないかもしれないけれど、親が大きな期待をして、必死になれば必死になるほど悪影響の出ることは多くなってきます。

しかし、その親からするとその問題行動の原因が、自分のしていることさせていることにあるとはなかなか考えられないようです。
親はこどものためと思って必死にやっているからです。

だから、こどもがそのストレスを表すようになってくると、その子のためと叱って封じ込んでしまいます。

親の前で封じ込まれたストレスを、保育園や学校など外に出たときに問題行動として発散します。
場合によっては、チックや退行などの心身症となることもあります。



昔から、裕福だったり社会的地位の高い家庭ではわりと早期教育が行われていました。
上と同様な問題が皆無だったとはとは思いませんが、そういった家庭では時間的、経済的、精神的余裕が親にも子にも十分にあることが多いので、それらがクッションとなり大きな破綻にいたることが少なかったのではないでしょうか。


早期教育がありえるとすれば、それはこどもが遊びと思って出来る範囲だと思います。まあ、それだとしても大金をかけてまでする必要性は僕はないとおもいますが。

こどもが遊びと思って楽しくできているのならば、いま上で述べたような問題というのは少なくなるでしょう。
ただ、あまり必死だとその境目はなかなか見えなくなってしまうようでありますが。



また、燃え尽き症候群もあります。

学校へ上がる前から、親に期待されまた親を喜ばせようとその期待に応えようとしてきた子が、あるとき疲れてしまったり、意義を見出せなくなってしまい、意欲がなくなったり、何事にも無気力になってしまうことがあります。

こどもからすると親に喜んでもらいたいと、がんばってきたのに、親の要求はどんどん増すばかり、テストで90点をとっても喜んでもらうどころか、もっと上を目指せといわれてしまう。

こういう状況ではこどもだって、努力しても満たされることなく、燃え尽き、無気力になってしまうのもわかります。


燃え尽きまでいかなくとも、親や早期教育の先生の要求に応えたり、意図的に作り出された競争の環境が大きなストレスとなり、そこを終え学校に入るとそのストレスを解消するために、そこでしたこと覚えたことなどの記憶をすっぽりと忘れてしまうこともあります。

叱咤激励されて出来てたことも、それよりずっと大きくなった小学生になったときにはまったく出来なくなったりということもあります。




「親の自己実現の投影」、「親のコンプレックスからの脱却をこどもに望むこと」。

これは僕が知る限り、多くの場合こどもに大変な重荷となります。

「自己実現の投影」とは、「自分はこれがしたかったけれども出来なかった。だから代わりにこどもにそれをやらせたい、こどもに達成させたい」ということです。

こどもにうまくその方向へいくようモチベーション付けができるならまだしも、こどもにも自分のしたいこと、意思があるのでなかなかその通りにはいきません。

だから、多くの場合ストレスになります。それでもこどもは親の望むようになろうとするので、自分を押し殺して従うこともあります。うまくいけばいいですが、そのような状態ではなかなかうまくいくものではありません。
こどもの心のキャパシティはそう大きくはないので、やはり問題行動がでたり、順調な成長にならなかったりします。



「親のコンプレックスからの脱却」でよく聞くのが、「自分は英語をあれだけがんばったのに身につかなかったので、こどもには身につけさせてやりたい。」というのもそうかもしれませんね。

外国語の習得については次回1章をもうけて書こうと思いますので、詳細は省略しますが、コンプレックスからの脱却をこどもに押し付けるのもあまりうまくいくのを見たことがありません。


「自分はこれを身につけられてよかったから、こどもにも身につけさせてあげたい」
↑こういった場合はわりとうまくいくようです。
自分がすでに身につけた経験があるので、ノウハウもそれなりに持ってるし、つらいところもわかるからでしょうか。


しかし、「自分はこれを持っていなかったから、こどもにはこれを持たせたい」
という考え方でこどもに何事かを学ばせるのは、なかなか難しいようです。

自分は身につけていない、または身につけるのに失敗しているのでうまくいくノウハウを持っていないし、がむしゃらに覚えることを押し付ける傾向があるのかもしれません。


どちらにしても、こどもの意志、個性はあまり尊重されていないので、こどもの心にとってはあまり心地いいものではありません。



最後に、僕の正直な感想です。

保育園、その他で早期教育を受けているこどもをみていますが、保育園というのは基本的に両親が働いている家庭です。

僕が関わった多くの家は母親もフルタイムで働いています。
母親が専業主婦でいるうちに較べれば、ずいぶん時間的な余裕はないと思います。

そういう家庭でも早期教育ブームのせいか、早期教育に駆り立てられています。

しかし、「あなたのうちならきっとどんな習い事させたってうまくいくよ」っていううちの子よりも「あなたのうちの子は人に噛み付かないで関われるとか、ごはん座って食べるとか、すぐ人を蹴ったり叩いたりでなくじっくり遊べるとか、大人と関わることが喜べるとか、お勉強の前に身につけることたくさんあるよっ!」といううちほど熱心に早期教育しようとしています。
(あくまで僕の経験に基づく感想なので、一般論ではないかもしれませんが・・・)

僕はそれが怖いです。
いまさらに早期教育熱が加速しようとしています。


本当に乳幼児期に身につけるべきものを身につけず、時として身につけるどころかマイナスの状態にして、知識だけ詰め込まれた大勢の子が大きくなったとき、どんな社会になってしまうことか・・。

それがとても怖いです。少数であればまだしも、多数がそうなってしまえばそのときになってから修正することは、そうとう難しいでしょう。


親がこどもの幸せを望むのは当然のことです。

しかし、いま物事の価値観が大きく揺らいでいるので、何を幸せととらえるかずいぶん変ってきています。


そのなかでもいまずいぶんと支配的になってきているのが、功利主義いわゆる「損得勘定」ではないでしょうか。

自分が得する権利の主張はするけど、他者の権利など考えもしない人や、金銭で物事を判断する人がとても多いように感じます。


驚いたことに、世の中には「こどもむけ株式投資講座」みたいなものもあって、親はこぞってこどもを参加させたりして、それがまた大盛況だったりするそうです。

経済的な豊かさというのも大切なものだとは思いますが、それだけでは虚しいものです。
経済的な豊かさを求めることはなかなか満足をしらないからです。

また、たとえ経済的に大成功を収めても、必ずしも幸せでなさそうな人がたくさんいるのが世の現実ではないでしょうか。


僕はこどもの小さい時期は、社会的・経済的な成功のレールを引いてあげるよりも、こども時代の幸福感をたくさん味あわせてあげることが、将来にわたってその人を幸せにする近道だと固く信じています。


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● COMMENT ●

No title

親のコンプレックスからの脱却。
確かにうちはそれで英語だけは・・・となってしまっています。
娘と一緒に私自身が楽しみながら勉強できればなぁと思っているのですが、やはり「自分はこれを身につけられてよかったから、こどもにも身につけさせてあげたい」という人がやるのとでは全然違いますよね。
次回の章も楽しみにしています。

子ども向けの株式講座、一時よく話題になってましたね。
主人が「これだ!!」なんて言ってましたが( ̄□||||!!
オカネも大切かもしれないけれど、それより大切な「心」や「幸せ」はお金では買えませんからね・・・。
こどもが株式投資だなんて。。。なんだかなぁ・・・・。

さっちんさん

> 親のコンプレックスからの脱却。
> 確かにうちはそれで英語だけは・・・となってしまっています。
> 娘と一緒に私自身が楽しみながら勉強できればなぁと思っているのですが、やはり「自分はこれを身につけられてよかったから、こどもにも身につけさせてあげたい」という人がやるのとでは全然違いますよね。
> 次回の章も楽しみにしています。

そうね~確かに努力らしい努力せずに語学習得できるんだったらそれに越したことはないんだけどね~。(笑)
僕も大学生の頃はどうにか学術論文読めるくらいはできたけど、そのときだって会話なんてちっともできなかったもの、日本の英語教育ってなんかへんだよね。


> 子ども向けの株式講座、一時よく話題になってましたね。
> 主人が「これだ!!」なんて言ってましたが( ̄□||||!!
> オカネも大切かもしれないけれど、それより大切な「心」や「幸せ」はお金では買えませんからね・・・。
> こどもが株式投資だなんて。。。なんだかなぁ・・・・。


こどもがお腹にいるときや、産まれた時は「どうか健康でいてくれれば、ほかに何も望みません」なんて思ってたはずなのに、人間って不思議だよね。
大人にすら難しいことをこどもに期待しちゃうんだから(笑)

No title

わたしも同感です。
子供は子供らしく、です^^

よくTVの特番なんかで幼児教育の特集をしていますが
唖然とします。
まだたっちも出来ない子供に数字を覚えさせたり
英語でしゃべりかけてみたり・・。

子供は遊んでナンボ!と思っているわたしでも
焦りを感じます^^;
きっとメディアの影響をうけるお母さんも少なくはないですよね。

知り合いの子(9歳)がドラえもんを知らないと聞いて
ビックリ仰天でしたe-451
そこまでして塾に通わなくても・・と思います^^;




空まめさん

> よくTVの特番なんかで幼児教育の特集をしていますが
> 唖然とします。
> まだたっちも出来ない子供に数字を覚えさせたり
> 英語でしゃべりかけてみたり・・。

ほんとこのごろマスメディアでもずいぶん取り上げてきていますね。
中には唖然としちゃうものもあるんだけど、そういうのに惹きつけられてしまう人も少なからずいるんだよね。


> 知り合いの子(9歳)がドラえもんを知らないと聞いて
> ビックリ仰天でしたe-451
> そこまでして塾に通わなくても・・と思います^^;


勉強も大事だとは思うけど、何事も程度問題だよね。
ほんとこどもは遊んでナンボです!


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楽しく無理のない子育てを広めたいと2009年ブログ開設。多くの方の応援があって著作の出版や講演活動をするようになりました。 現在は、子育て講演や保育士セミナーの他、『たまひよ』や『AERA with Baby 』等の子育て雑誌の監修やコラム執筆。『ジョブデポ保育士』の監修や育児相談などをいたしております。

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